執事ちゃんの恋
「ええ、ヒナタを演じているときは、ね?」
なんとなく健の言葉に信憑性を感じなかったヒヨリだったが、今は健と言い合っている時間はない。
「とにかく、私はすぐコウさまのところにいかなくちゃ。先生は速攻この部屋からでていってください」
有無を言わせませんよ、とばかりに扉を指差して指図をするヒヨリに、健は肩を竦めた。
「私を部屋に連れ込んだのはヒヨリですよ? なにもなく出て行くわけがないでしょう」
「へ?」
危険を察知したヒヨリだったが、時すでに遅かった。
ヒヨリのタイをプチンと外し、ボタンを早業でふたつほど外す。
「え? んっ!」
チクリと痛む胸。
きつく健に吸われてヒヨリは、思わずその場に座りこんでしまった。
「ごちそうさま、ヒヨリ。また後で」
そういって何事もなく部屋を出て行ってしまった健。
残されたヒヨリは、健が部屋からいなくなってから我に返り、恥ずかしさに言葉をなくした。