執事ちゃんの恋
第12話
第12話
なんとか気持ちを建て直し、心を落ちつかせてから部屋を出たときには、そこにはもう健はいなかった。
なんとなくホッとしたような、がっかりしたような。
ヒヨリは少しだけ複雑な想いを抱いたが、頭を振って今あった出来事を忘れることだけに集中した。
少しでも気を抜けば、また健の甘い指先を思い出してしまう。
とにかく今は忘れることが先決だ。
――― 私はヒナタ。男の執事。しっかりなさい!
グッと拳に力を入れ、覚悟をしながら隣の部屋、コウの部屋にノックをした。
少しの沈黙のあと返事が聞こえた。
「どうぞ」
コウの声を聞いて、なんとか頭が女から男執事へとシフトできた。
ヒヨリは少しだけ安堵のため息を零しながら、部屋へと入る。
紅茶を飲んで、ゆったりしているコウの下へと行き、跪く。
すぐさまコウの足の傷の手当をしたのち、新しい靴を見せた。
「こちらの靴は、少しヒールが低くなっております。本当は先ほどまで履かれていたヒールが高い靴のほうが今日のお洋服には見栄えがいいと思いますが、こちらでも十分可愛くなりますよ」
「ああ、よかった。もう、あれを履くのは勘弁だなぁって思っていたところ」
ヒヨリになされるがままに自分の足に靴を履かせてもらい、その場に立ち上がった。