執事ちゃんの恋
「うん。これなら大丈夫」
「左様でございますか。ようございました」
予備に持ってきていたバレーシューズタイプの靴が役にたったことに安堵しつつ、広げていた救急セットを片付けていく。
その様子を傍らでみていたコウが、ポツリと呟いた。
「ねぇ、ヒナタ」
「はい、なんでございましょうか」
「……」
何も言い出さないコウを不思議に思い、顔をあげるとコウは困惑した表情を浮かべている。
どうしたのだろうと思ったが、すぐにコウの考えていることが今後のことだろうと気がつく。
「ああ、ご心配なさらず。大丈夫でございますよ?」
「え?」
「まだ今ならパーティー会場は薄暗いままだと思われます」
チラリと腕時計を見て確認したが、今の時間なら文月家のピアニストである衛の演奏が終わり、次はバイオリニストの演奏が入っているはず。
今ならまだ、こっそりと会場入りすれば気がつかれないだろう。
コウに心配はないと言おうとしたのだが、どうもコウの様子がおかしい。
黙ったまま、じっとヒヨリを見つめている。
それも頭の先から足の先まで舐めるように、なにかを確認するかのように視線を走らせている。
「コウ様?」
どうやら目の前のコウを見る限り、パーティー会場から突然抜け出したことを心配している様子はない。
どうしたのだろうか、とヒヨリは小首を傾げる。
そんな様子のヒヨリを見て、コウはポツリと呟いた。