執事ちゃんの恋
「なんか、今のヒナタって……」
「はい」
「色っぽくない?」
ガシャン。
思わず持っていた救急セットを落としてしまった。
内心かなり慌てながら、それらを拾い集めヒヨリは何事もなかったかのようにコウを見て微笑んだ。
「……突然どうしたのですか? コウ様」
「んー、なんとなく? この部屋出る前と今とじゃ全然雰囲気が違う……気がする?」
コウもどうやら半信半疑らしい。
違うような気もするし、同じような気もする。
そんなふうに感じたのだろう。
ヒヨリは、少しだけ胸を撫で下ろした。
そして、この局面をどう乗り切ろうか。
ヒヨリは何事もなかったように装いながら、頭の中でフル回転で考える。
「コウ様」
「ん?」
「コウ様がそう見えた、感じたと言うのならそうなのでしょう」
「ヒナタ?」
戸惑った顔。
瞳の奥が少しだけ揺れている。
ヒヨリはコウのその様子を見て、ニッコリと切り札とばかりに微笑んだ。
そう、双子の兄であるヒナタのマネ。
あの男は、女の子目の前だとこうして時折笑顔を武器にする。
それをまねて、その上ヒナタが言いそうな甘い言葉を用意する。
「私がそのように見えたと言うのなら、それはコウ様のせいかもしれませんよ?
」
「え? どういうこと?」
困惑した様子のコウに、これでもかと必殺武器をかざす。
そうするとコウの頬にサッと赤みが増した。