執事ちゃんの恋






「さぁ、コウ様。戦いの始まりでございますよ」

「……」

「気合を入れて乗り切りましょう」


 ヒヨリはコウの耳元でそう囁く。

 すると、コウはクルリと勢いよくヒヨリを振り返りツンとすました。

 その表情はやっぱり由緒正しきお家柄のお姫様だ。


「行くわよ、ヒナタ」

「畏まりました。コウお嬢様」


 こっそりと再び戻った会場には、入ってすぐに明かりが元通りになる。

 どうやらギリギリのタイミングだったらしい。

 演奏も終わり、談話に花が咲くゲストたち。


 コウは、再び挨拶の嵐を受けながらもホストらしく振舞っている。

 それを誇らしげに、斜め後ろで控えているヒヨリは見つめていた。


 が、そのときだった。

 突然コウの表情が柔らかくなった。


 ――― どうしたんだろう?

 
 不思議に思い、ヒヨリはコウの視線の先を見つめる。

 そこには、この会場では会いたくない人物ナンバーワンが笑顔で微笑んでいたのだった。









 
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