執事ちゃんの恋
「コウか。久しぶりですね。元気に……していますよね。貴女なら」
クスクスと笑う健の表情も柔らかい。
久しぶりという言葉を使うということは、やっぱりコウと健は知り合いということになる。
それもこれだけコウが心を開いているとなれば……やはり健は文月家の関係者だと裏づけされていることにもなる。
ヒヨリがそんな分析をしていると、目の前のコウは勢いよく健に抱きついた。
その様子は、慣れ親しんだ人に抱きつくといった様子で、二人の親密さが手の取るようにわかった。
――― なんだか、ちょっとイヤだな。
ヒヨリは、今自分は男執事としてこの会場にいるということを一瞬忘れて、そんなことを思ってしまった。
すぐさまヒヨリは正常心を取り戻したが、やはり胸のわだかまりは取れぬまま。
コウがこれだけ懐いている理由。
それはいったいどういうことなのだろうか。
鈴木 健。
彼はいったい何者なのだろうか。
「もっちろーん!」
コウは健から離れ、ピースサインをして微笑む。
その笑みは、心から嬉しそうでほほ笑ましい。
しかし、ヒヨリとしては少し複雑だし、悩みは増すばかりだ。
――― コウと健の関係とは……いったい?
考え込んでいたヒヨリだったが、コウの言葉に弾かれるように意識を戻す。
「そうそう、ヒナタは初めて会うのよね? ずっと健くんは絵を描くためにあちこち転々としているから」
フフッとヒヨリに視線を合わせ同意を求めてきた。
ヒヨリは慌てて背筋を伸ばし、「ええ」と少しだけ微笑んで頷く。
――― な、なんか。健せんせの視線がものすごく感じる。
全身に感じる視線。
それは目の前の健の視線のようだ。
健の視線は、丸裸にされているような気がして落ち着かない。
ヒヨリは冷や汗と、そして思わず頬が赤くなってしまいそうになるのをなんとか誤魔化す。
健を直視できないヒヨリの前に、コウはニコニコと笑って健の背を押し、ヒヨリの前まで連れてきた。
これでは顔をあげないわけにもいかないだろう。
ヒヨリは少しだけ顔を強張らせた。