執事ちゃんの恋
あの誕生日パーティーから、すでに一週間が経とうとしていた。
健の突然の登場にも驚いたヒヨリだったが、健が文月家当主の弟と聞き腰を抜かしそうなぐらいに驚いた。
その事実を聞いていなかったものだから驚くのもしかたがない。
後日、文句を言うために実家に電話をしたのだが、返ってきた答えは思わず項垂れてしまうような返事だった。
「ああ。健さまのことか。健さまに口止めされていたからな、すまなかった」
わはは、と悪びれもせず笑う宗徳。
そのひと言で終わらせた父親には、思わず殺意を覚えた。
文月家の執事になると決まった時点で、私にはひと言ぐらいあってもいいようなものなのに……。
ヒヨリは、そのあとグチグチと父親に対して非難をしたのだが、ぬかに釘。
なにを言っても懲りない自分の父親に、ため息しかでてこなかった。
「そういえば、ヒナタは見つかりましたか?」
ヒヨリのその言葉に、宗徳の笑いもピタリと止まった。
「まだだ……もうしばらく無理をさせる。頼むぞ、ヒヨリ」
どうやらまだヒナタの鬼ごっこは続いているらしい。
ヒナタは昔から鬼ごっこやかくれんぼの類は得意中の得意だ。
なかなか見つけることは難しいかもしれない。
私にも連絡をよこさないあたり、ヒナタも徹底している。
なにがなんでも逃げ切るつもりなのだろう。
「もう、出てきてもいいのに」
ヒヨリは誰もいないことをいいことに小さく呟いた。