執事ちゃんの恋
少し前までは、ヒナタがうまく逃げていてくれていることに安堵したし、感謝もしていた。
ヒナタがこうしてかくれんぼをしてくれているおかげで、どこの誰ともわからない男性との結婚を免れているのだ。
健に恋心を抱いているヒヨリにとって、ほかの男の妻になるだなんて今は考えられないし、割り切ることもできない。
――― もしかしたら、健せんせが私のことを想ってくれるかも……。
そんな淡い想いを抱いていた。
だが、今は少し違う。
誕生日パーティーの日に聞いてしまった事実にヒヨリはショックを受けていた。
健には好きな女の人がいるということ。
裸体は描かないと言っていた健が、描いたという女性は一体誰なのだろう。
コウが結婚をするのかと聞いたとき、健は少しだけ笑みを浮かべて頷いたのだ。
それが決定打だった。
健にはヒヨリに気持ちがないということがわかってしまった。
――― だって私、健せんせに裸体なんて描いてもらってないもの。
失恋決定を打ち出されたとしても、健のことを忘れることなんてできない。
それどころか会ってしまったら再び会いたい、抱きしめてほしいと思ってしまう。
恋って恐ろしい。こんなにも盲目になってしまうのだろうか。
ズンと落ち込みそうになるのをグッと堪えながらの仕事は思った以上に辛かった。
そのときに浮かんだのは、宗徳が用意してくれたマンションの存在だった。
――― 久しぶりに行ってみようかしら。
幸い、今日コウはここにはいない。
お友達の家に泊まりに行っているからだ。
さすがに他家の屋敷に執事はついていくことはできない。
お見送りしたあと、さてどうしようかと思っていたところだったのだ。