執事ちゃんの恋




 久しぶりにあの姫グッズで満たされたマンションに戻ってみるのもリフレッシュができていいだろう。

 さすがにこの文月家に姫グッズを持ってくることは憚れたので、今はヒヨリの手元には大好きな姫グッズはない。

 なんせ男装をしている身としては持ち込むこともできないだろう。

 
 ラブリーで姫グッズが好きなヒヨリとしては、それをこの文月家に持ち込むことができないということもストレスになりつつあった。

 思いついたら我慢などできそうにもない。



「善は急げってね」



 ヒヨリは、すぐさまラフな服装に着替え、車に乗ってマンションへと急ぐ。

 自分の好きな空間はもうすぐ目の前にある。

 ウキウキ気分でマンションの鍵をポケットから取り出し、鍵を差込んだ。

 しかし、部屋の鍵は開いているようだ。



「ま、まさか……泥棒とか?」

 

 もしそうだったら投げ飛ばそうと心に誓い、警戒しながらリビングまで足を進める。

 が、そこでヒヨリを待ち構えていたのは泥棒でも不審者でもなかった。

 
 上半身裸で、頭にはタオルをかぶせてゴシゴシと頭を拭いている健がそこにはいた。

 一瞬なにが起こったのか理解できなかった頭が、次に指令したことは逃げることだった。



「失礼しました」



 そそくさと逃げようとしたヒヨリの腕を掴んで、健はフフッとおかしそうに笑った。







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