執事ちゃんの恋
第15話
第15話
「……健せんせってば、容赦ないんだから」
あちこち痛む身体をなんとか動かして、やっとの思いで文月家のお屋敷に戻ってきた。
ふと気を緩めれば、つい先ほどまで施されていた愛撫の余韻に浸りそうになる。
ヒヨリは、頭を振って、「煩悩よ消えて」と何度も念じた。
――― 健せんせって私よりかなり歳は上よね? なのに、なんなの!? あの体力は。
腰を擦りながら、なんとか背筋を伸ばすが、どこかへっぴり腰になってしまうのは全部健のせいだ。
ヒヨリはここにはいない健のことを思い出し、口を尖らせた。
昨日は、ずっと健に組み敷かれ続けていたヒヨリ。
ご飯を食べる時間も惜しいとばかりに、貪欲に健はヒヨリを求めた。
何度も口づけをして、何度も高みに昇らされて。
耳もとでは、数え切れないほどの愛の言葉。
健の甘い言葉に躍らされ、甘美な痺れを何度も起こした。
でも、頭の片隅ではずっと思っていた。
―――― ねぇ、健せんせ。その甘い愛の言葉を婚約者にも言っているの?
―――― それとも抱く女には、もれなく愛に溺れさせるの?
聞きたいけど、聞けない。
聞いたら終わりだと思うから。
ヒヨリは、チクンと胸が痛むのを感じて胸元をギュッと握った。
私が子供だからだろうか。だから、楽勝に騙せると思っているのかしら。
それなら健せんせの作戦勝ちだ。
騙されているふりをし続けて、抱きしめてもらっているのだから。
とにかくしまりのない顔と身体を早急になんとかせねばならない。
ググッと背中に力を入れ、少しでも姿勢を正す。
鏡を見つめ、なんとかいつもどおりの執事ヒナタになっていることに安堵しつつも首元をとくに気にして直す。