執事ちゃんの恋
「健せんせってば、あちこちにキスマークつけるんだもの」
それも器用に執事服を着たときに見えるところにはキスマークをつけず、それ以外のところは真っ赤な花が散らされているという状態だ。
今、ヒヨリが裸になれば真っ赤な痣ばかりだ。
裸になって人に晒すようなことはないとは思うが、とにかく当分の間は気をつけなくてはならないだろう。
とにかく気合を入れなければ、とワイシャツの襟を正しながらヒヨリは鏡の向こうの自分に言い聞かせた。
少しだけ寝不足気味の顔は、どうやって隠そうか。
コウは、そういうことには特にすぐに感づく。
お嬢様を心配させてしまっては執事ヒナタの名が廃る。
出来る限りの努力で復活させた自分の顔を見て、多少安心した。
少し歪んでしまったネクタイをキュッと結びなおし、唇を噛みしめながら前を見つめた。
その時、車のエンジン音が聞こえた。
コウが友人宅から帰宅したのだろう。
ヒヨリは、パンと自分の頬を叩いたあと、急ぎ足で玄関に向った。