執事ちゃんの恋
「おかえりなさいませ、コウさま」
「ただいま、ヒナタ」
いつもどおり元気な様子のコウを見て安堵した。
昨夜泊まったコウの友人は、昔からの友達。所謂コウの幼馴染だ。
家柄もよく、文月家の当主や奥方とも親交がある間柄だ。
コウはよく遊びに行くし、ご友人もよくこの文月家においでになる。
だから何も心配することはないのだが、やはりこの目で元気な様子をみるまでは気が抜けない。
こういうところは、すっかり自分も執事になってきたなぁとヒヨリは心の中でこっそりと笑った。
だが、元気そうなコウだが一点だけ難所が見つかった。
それもヒヨリと同様の症状。
コウに向って、ヒヨリはチラッと意味ありげに視線を投げた。
「な、なによ……ヒナタ」
「コウさま」
「な、なに?」
「昨夜はどれだけ夜更かしなされていたのでしょう」
「っ!」
バッと慌てて顔を隠すコウの仕草があまりに可愛くて、ヒヨリは思わず微笑んだ。
「別に怒ったりなどしませんよ」
「うー」
「ただ、お疲れの様子ですからお休みになられてはどうかと提案しようとしただけです」
時計を見れば午前11時。もう少しで昼食という時間だ。
一時間横になって休んだあと、昼食をとることにすればいい。
そう思ってコウに提案したヒヨリだったが、コウはなんとなくバツが悪いらしく視線を泳がせた。
「お、女の子には色々と積もる話もあるんですっ!」
「そうでございますか」
「そ、そうよ! 恋ばなとか、色々ね!」
なるほど、恋の話か。
確かにこれぐらいの女の子は、集まれば恋の話をしていたなぁと自分の高校時代を思い出し、懐かしく思った。
それにしても、なんでこんなにもコウはムキになっているのだろう。
心許せる友人とお泊り会ともなれば、夜更かしもしてしまうだろう。
いつもは話せないこともたっぷり話すことができるから。
なにもおかしいことはないのに、なにをそんなに動揺しているのだろうか。
不思議に思ってコウを見れば、なにやら頬を真っ赤にさせている。
コウは、なぜそこまで恥ずかしがっているのだろうか。
小首を傾げてコウを見つめると、コウは照れ隠しのように歩みを早くして自分の部屋へと向っていく。