執事ちゃんの恋



 なかなか言い出さない宗徳に、ヒヨリは痺れを切らした。

 もったいぶったって未来はすでに決まってしまっている。それなら早々と覚悟を決めたい。

 健せんせのこと、諦めなくちゃいけないのなら。ズルズルと時間だけが過ぎれば、それだけ辛くなる。


「お父様、私の婚約者の方はどこのどなたですか?」

「……」

「どうしてお父様はそんなに渋っているの?」

「……」

「お父様」


 何も言わない宗徳に大きくため息をつく。

 そんなヒヨリを見て宗徳は意を決したように真剣な表情で見つめた。


「ヒヨリ」

「はい」

「お前には、東京の文月家に行ってもらう」


 一瞬、お父様の言うことが理解できなかった。

 私の役目は、霧島本家に婿養子を迎えること。そして、その人との子を宿すこと。

 それは代々から決まっている慣わし。


 それなのに、私が文月家に行くということはどういうことなんだろうか。
 
 ヒヨリが何も言えずに考え込んでいる様子を見て、宗徳は大きく息を吐き出した。


「……ヒナタが行方不明だ」

「……は?」

「どこを探しても見つからん」


 心底困った様子の宗徳に、思わずヒヨリは目を大きく見開いた。

 どうやら嘘じゃないらしい。

 ヒヨリは一歩遅れて叫びながら立ち上がった。



「ど、ど、どういうこと? それ!?」

「落ち着きなさい、ヒヨリ」

「ってか、これが落ち着いていられますか!? だって、え? ヒナタは誕生日来たら文月家のお嬢様の執事になることが決まっていたんでしょ?」


「……ああ」


 苦々しく頷く宗徳を見て、ヒヨリはよりヒートアップしていく。





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