執事ちゃんの恋
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「ねぇ、ヒナタ」
「はい、なんでしょうか。コウさま」
お昼ご飯は、コウ一人だけだ。
休日だが、当主と奥方は仕事の関係で外出している。
今日のメニューは文月家お抱えシェフが作ったオムライス。
どうやらコウが先日シェフに「久しぶりにオムライスが食べたい」とリクエストしたらしい。
目の前にオムライスを置くと、コウは瞳を輝かせてスプーンを持つ。
ふわふわの半熟オムレツにゆっくりと切り込みを入れると、中からトロッとした卵がケチャップライスに覆いかぶさる。
嬉々としてそれを食べるコウは、まるで子供のようで見ていてほほ笑ましい。
お嬢様として外で振舞われるときは、少し大人びたように感じるコウだが、こうして家にいるときは年齢相応の様子が垣間みることができる。
そのギャップがまた可愛らしいとヒヨリが思っていると、まだ半分以上残っているのにコウはスプーンを置いた。
「どうかなさいましたか? コウさま」
「……えっと」
「体調が思わしくないとか……お休みになられますか? あとでお薬をお持ちいたしますが」
確かにご友人宅から戻られたとき、疲れている様子だった。
それは体調が悪いせいだったのか。
ヒヨリは自分のミスを恥じ、コウの顔を覗きこむ。
が、コウは「違うのよ」と首を横に振った。
「大丈夫。お腹が減っていないわけじゃないし、きちんと食べるから」
「では、どうかなさいましたか?」
「……うん、あのね」
少しだけ戸惑い、口を閉ざしたあと。コウはヒヨリを見上げて呟いた。
「ねぇ、ヒナタ。双子の妹のヒヨリは元気?」
「ヒ、ヒヨリですか?」
突然自分の話題を出され、戸惑う。
そんなヒヨリの様子に気づかず、コウは目をキラキラとさせた。
「私、ヒヨリに会いたいの」
「ヒヨリに……ですか」
「ええ。会ってみたいの。色々聞きたいこともあるし」
「聞きたいこと……」
ますます戸惑うヒヨリに対し、コウは大きく頷いた。
「ねぇ、ヒナタ。ヒヨリに連絡がつくかしら?」
「ヒヨリは自由人でして……私でもなかなか連絡がとれないのですよ」
とにかく誤魔化さなくてはとヒヨリは冷や汗もので答えると、コウは口を尖らせた。
「そうなんだ、残念」
「申し訳ありません、コウさま」
「一応連絡はとってみてよ、ヒナタ」
「……畏まりました」
小さく頭を下げると、コウは満足したようにオムライスを食べだした。
無邪気な様子のコウとは裏腹に、ヒヨリはこの事態をどうしたらいいのかと思い悩む。
昼下がりの午後。
ヒヨリの身体と頭は、ショート寸前だった。