執事ちゃんの恋




「だって私、どうしてもヒナタの妹のヒヨリに会いたかったんだもの。私、一度も会っていないのよ?」

「ああ、私だってかなり昔に一回会ったきりだ」

「お父様だって会いたいわよね!? だって、ヒナタの双子の妹よ? 顔は似ているのかしら?」


 興味津々の様子のコウは、瞳を輝かせてヒヨリを見つめている。

 その様子はとても可愛らしいが、内容はヒヨリにとっては冷や汗モノだ。

 数日前、コウに言われたときに、やんわりと断っておいたのだが……。

 どうやらコウは諦めきれなかった、ということらしい。


 栄西からの命令なら、さすがにヒナタは動いてくれるだろう。

 そう考えてのコウの作戦に違いない。

 ヒヨリは頭が痛くなりそうになるのをグッと堪え、目の前のコウに笑顔を向けた。


「よく似ていると言われていますよ」

「へぇー! ますます会いたくなっちゃった。いつなら会いにきてくれるかしら?」


 ウキウキとせわしいコウの様子をみて、栄西は瞳を優しげに細めた。


「ヒヨリがどこにいるかにもよるが……」

「そうよねぇ。ヒナタだってなかなか連絡がつけれないみたいだし」


 口を尖らせてコウはヒヨリを見る。

 その視線には抗議も含まれているようで、チクチクと痛い。

 ヒヨリは、その視線をやんわりと遮り、ほのかに笑うことで逃げた。


 コウが言いたいことはわかる。

 自分がお願いしたときには無理だの一点張りだったのに、当主のいう事なら聞くのかと言いたいのだろう。

 だが、栄西がこうも強く言ってくるとは思わなかった。

 それも、ヒヨリに会わせろと言い出すとは思っていなかったのだ。


 ――― もしかして、疑われている?


 栄西が見せた、あの探るような視線。

 これは今、文月家にいるヒナタが偽者だと感づいたせいだろうか。

 ヒヨリの背中に冷や汗がツゥーと流れた。


「そうだ。来月に行われる文月財閥記念パーティーに妹君を呼んだらどうだろう」

「わ! それいいかも!」


 栄西の提案に、声をあげて喜ぶコウ。

 それをみて、ますます冷や汗が流れるヒヨリ。
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