執事ちゃんの恋
ここまでお膳立てされて、ヒヨリと連絡がつきませんでした、などと言えるわけがない。
ますます逃げ道がなくなりつつある現実に、眩暈を起してしまいそうだ。
「会場はホテルだから、そのまま泊まってもらえばいい」
「うんうん。わー! 楽しみだわ」
どんどん会話がエスカレートしていく。
青ざめていく顔をなんとか隠すように、ヒヨリは笑みを浮かべるが頬が痙攣を起しそうだ。
そんな中、父親と子供の会話を大人しく聞いていた奥方だったが、一番の爆弾発言を投下した。
「あら、それならもう少し前から来ていただけないかしら」
「え? どういうこと? お母様」
「だって、ヒヨリちゃんってヒナタに似ているのでしょ? ということは、かなりの美人さんよね」
うふふ、と笑いながらヒヨリを見つめる奥方。
ほうじ茶を啜ったあと、もう一度楽しげに笑った。
「着飾るのも楽しそう。どうしましょう、ドレスがいいかしら? それともお着物? ねぇ、ヒナタ。ヒヨリちゃんはどちらがお似合いになるかしら?」
もう奥方の中では、ヒヨリを着せ替え人形よろしく着飾って楽しむことは決定のようだ。
こればっかりはとにかく阻止せねばならない。
ここまでお膳立てされてしまったら、どうあがいてもヒヨリがパーティーに出ないといけなくなるから。
だが、実際問題それは無理だ。
本物のヒヨリは、なんと言ってもこの場にいるヒナタなのだから。
そして、本物のヒナタは逃亡中。
どうしたって無理が生じる。
パーティー会場では、必ず執事としてコウの傍についていないといけない。
その上、ヒヨリとして着飾ってパーティーにも出席しなくてはならない。
いくら考えても、ヒヨリ一人ではどうすることもできない。
これはすぐさま霧島家に電話をかけ、対策会議を開かねばならないだろう。
和気藹々と家族でヒヨリの話題に花を咲かせている一方で、ヒヨリは胃が痛くなる思いだ。