執事ちゃんの恋
そしてその夜。
自室へと戻ったヒヨリは、急いで携帯電話を掴んだ。
早くこの緊急事態を宗徳に話し、対策を練らなくてはならない。
実家である霧島家の、それも宗徳直通の電話にかけようとしたときだった。
「健せんせ?」
着信音が鳴り、ディスプレイには“健せんせ”の文字が。
慌てて電話にでると、いつもどおりのんびりとした優しい声色が聞こえた。
『お疲れさま、ヒヨリ。今日も一日大変だったでしょう』
「ううん、大丈夫」
本当は大丈夫なんかじゃない。今日は特に精神的に疲れた。
だけど、健との電話だけは元気なヒヨリでいたい。
その思いから出た言葉だったが、年長者の健にはすべてお見通しだったらしい。
『相変わらず嘘が下手だね、ヒヨリは』
「え?」
『なにかあっただろう? 言ってごらん』
健のやさしい言葉に、今日の疲れが一気に押し寄せてきて涙が出そうになった。
その健の気持ちが嬉しく、ヒヨリは栄西に命令に近いお願いをされたことを話した。
「どうしよう、健せんせ」
泣きべそをかいているヒヨリに、健はクスクスとおかしそうに笑った。
『大丈夫。私にいい考えがあるから』
「え? いい考えって?」
食いつくヒヨリに、健は相変わらず飄々としていた。
『とにかく私に任せておきなさい』
「えっと……大丈夫?」
「失礼だな、ヒヨリは。大丈夫ですよ、ちゃんと根回ししておくから。心配せずにもうおやすみ』
何度聞いても、“いい考え”の内容を教えてくれることはなかった。
だが、健は念を押すように会話の最後に言った。
『ヒヨリの当日のドレスは、私がプレゼントしますから。裸で私の部屋に来なさい、いいね?』
――― ねぇ、健せんせ。私をどうする気?
ヒヨリは、顔を引き攣らせた。