執事ちゃんの恋
第17話
第17話
「た、健せん……健さま。これは一体……」
「ん? 大丈夫。兄さんには断りをいれてきたから。安心なさい、ヒナタ」
コウが高校に登校するため、玄関でお見送りをしたあと「さて、雑務を片付けなくては」と屋敷に入ろうとしたときだった。
突然腕を掴まれたのだ。
ヒヨリは驚いて、自分の腕を突然掴んできた相手を見て吃驚して後ずさる。
が、腕はしっかりと掴まれているため、尻込みしただけで逃げることはできなかった。
腕を掴んできた人物。それは、先日ヒヨリをこれでもかと甘い言葉とともに押し倒してきた健だった。
辺りを見回し、同じく文月家で働く同僚たちに助けてくれと視線で訴えたが、健の言葉が聞こえて笑顔でヒヨリを見送っている。
健の兄といえば、文月家当主のこと。
当主の許可が下りていれば、どこへなりともどうぞ、そんな雰囲気の屋敷の面々にヒヨリは心の中で舌打ちをした。
執事の格好をしたヒヨリを、健は強引に停めてあった車の助手席に押し込んだ。
ヒヨリとしては、なにやら嫌な予感しかしないので健の車に乗るのは遠慮願いたいところだが、家の者たちの視線がある以上、大人しく従うしかほかないだろう。
なんといっても健は、文月家の者。それも当主の弟でもある。
その彼に歯向くことなんて文月家で働く者は誰もできないだろう。
それは、ヒヨリだって例外ではない。
有無を言わさず自分を連れ去ろうとする健に、ヒヨリはなす術もない。