執事ちゃんの恋
「健せんせ、ちょ、ちょっと落ち着こうか」
「無理ですね」
「そ、そんな笑顔で無理だなんていわないでください」
「だって無理なものは無理なんだから、しかたないでしょう」
「だから! そうやって開き直らないでくださいってば」
子供のような健に、ヒヨリはほとほと困ってしまった。
歳は離れているというのに、こういうときの健は子供のようで、そして頑固だ。
ヒヨリがなんと言おうと押し倒そうとする、その強引さ。
それを食い止めるほどの力は、ヒヨリにはない。
なんせ止めようとしても、ヒヨリが流されてしまう。
そこはやはり健のオトナの力量なのだろうが、圧倒的な力の差を見せつけられたようでヒヨリも面白くはない。
「とにかく、今はヒナタです。ヒナタのときは、手を出さないって約束でしたよね?」
「……」
「でしたよね!? ね!?」
何度も確認をすると、健は大きくため息をついてヒヨリから離れた。
そして小さく呟く。
「……そんな約束しなければよかった」
「健せんせ!!」
ヒヨリは体勢を起こし、健をギロリと睨む。
その視線を感じて、健は肩を竦めた。
「わかりました。ヒナタのときは手を出しません」
「よろしい……ってか、健せんせ。今日私を連れ出したのは何か用があったんじゃ」
「ああ、そうそう。忘れるところでした」
「……忘れないでくださいよ、まったく」
ヒヨリが大げさにため息をつくと、それを見ていた健は少しだけ笑い、そのあと表情を引き締めた。