執事ちゃんの恋
「先日の電話の件のことですよ」
「ってことは……文月財閥記念パーティーのことですね」
「そう、なんとか根回しは完了したのでヒヨリに報告をと思いましてね」
健は、もう一度シートベルトをつけ、ヒヨリにも促した。
ヒヨリもシートベルトをつけたことを確認したあと、健は再び車を発進させた。
車は公園の駐車場を出て、環状線に出る。
「今からある人に会ってもらおうかと思ってね」
「ある人……ですか?」
「そう、共犯者がいないとマズイからね」
「共犯者って……」
ヒヨリは苦笑したが、健は真剣な表情でハンドルをさばく。
「大事なことですよ。ある程度文月家のことを把握していて、その上このトップシークレットを隠してくれる人物がやはり必要ですからね」
「まぁ……そうでしょうけど」
「だから、私がきちんとセッティングして頼んでおきましたから大丈夫ですよ」
少しだけ頬を緩め、前を向いて運転をしている健を見て、ヒヨリは口を開く。
「ところで、健せんせ」
「ん? なんですか、ヒヨリ」
「そろそろその作戦とやらの内容を教えてくれてもいいんじゃないですか?」
「……」
「実行する本人が知らないではマズイでしょ?」
ヒヨリがギャンギャン騒いでも、健は涼しい顔をして運転をしている。
結局今は教えてくれないということなのだろう。
ヒヨリが半ば諦めたころ、車は左にウィンカーをだした。
ゆっくりと車の速度を落とし、お店の駐車場に車は停まった。
「さぁ、つきましたよ。ヒヨリ」
「だから、健せんせ!」
内容を今だ教えない健に、ヒヨリは腹をたて叫んだが、健はクスクスと笑うのみ。
「とにかく行きましょう。詳しくは、ある人物に会ってから……ね?」
「……」
今日会うことになっている、その共犯者と会うまでは内緒らしい。
ヒヨリは大きく息を吐き出したあと、シートベルトを外した。