執事ちゃんの恋





「さぁ、ヒヨリ。あまり待たせていると悪いからね」

「あ……そうだった」


 健の言葉を聞いて、ヒヨリは今日ここに来た目的のことを思い出した。


「マスター。あとでコーヒーと……ヒヨリは何を飲む?」

「えっと……カフェモカをお願いします」

「了解しました。では、あとでお席にお持ちしますね」


 ポットを手にしたまま、マスターはニコヤカに応対したあと「ごゆっくり」と健とヒヨリの背中に向って声をかけた。

 ヒヨリは健のあとに続いて階段を昇り、奥まったボックス席へと近づいた。
 そこには一人の女性が紅茶を優雅に飲んでいた。


「美紗子」


 健は、その女性に声をかける。

 その瞬間、ヒヨリはなんともいえぬ嫉妬めいた感情がこみ上げた。

 慣れ親しんだように呼ぶ、その女性の名前。

 それだけで、健とその美紗子という女性が親密な関係なのだろうと予想できた。


「あら、健さん。遅かったわね」

「悪かったね。色々と野暮用があってね」

「ふーん」


 面白くなさそうに口を尖らせたあと、健の隣にいるヒヨリに気がつき、まばゆいばかりの笑顔をした。







< 83 / 203 >

この作品をシェア

pagetop