執事ちゃんの恋
「さぁ、ヒヨリ。あまり待たせていると悪いからね」
「あ……そうだった」
健の言葉を聞いて、ヒヨリは今日ここに来た目的のことを思い出した。
「マスター。あとでコーヒーと……ヒヨリは何を飲む?」
「えっと……カフェモカをお願いします」
「了解しました。では、あとでお席にお持ちしますね」
ポットを手にしたまま、マスターはニコヤカに応対したあと「ごゆっくり」と健とヒヨリの背中に向って声をかけた。
ヒヨリは健のあとに続いて階段を昇り、奥まったボックス席へと近づいた。
そこには一人の女性が紅茶を優雅に飲んでいた。
「美紗子」
健は、その女性に声をかける。
その瞬間、ヒヨリはなんともいえぬ嫉妬めいた感情がこみ上げた。
慣れ親しんだように呼ぶ、その女性の名前。
それだけで、健とその美紗子という女性が親密な関係なのだろうと予想できた。
「あら、健さん。遅かったわね」
「悪かったね。色々と野暮用があってね」
「ふーん」
面白くなさそうに口を尖らせたあと、健の隣にいるヒヨリに気がつき、まばゆいばかりの笑顔をした。