執事ちゃんの恋
「健せんせ……あのね」
「……なんだい、ヒヨリ」
ヒヨリに近づいた距離を戻すために、一度運転席に戻った健は、優しげに口元に笑みを浮かべた。
その笑みを見て、ヒヨリは少しだけ心が落ちついたようで、息を小さく吐いた。
「健せんせの作戦……うまくいくかな」
「ああ……そのことが不安だったんですね」
ヒヨりの様子がおかしい原因がわかった健は、あからさまにホッとして瞳を細めた。
「大丈夫ですよ。美紗子も協力してくれますし。心配はいらないよ」
「……そう、ですよね」
「そうだよ、ヒヨリ。それにね、ヒヨリは私と一緒にパーティー会場に戻るようにするから」
「え?」
驚いて顔をあげるヒヨリに、健は「大丈夫だよ」と小さく笑った。
「私はね、自他共に認めるパーティー嫌いなんだ。それは当主である兄さんも知っていることだし、コウも知っている。そんな俺のパートナーとしてヒヨリが行けば、すぐに退散できるよ」
「……」
「ほら、何も心配することはない。顔を出したらすぐに私と一緒に退散すれば問題はないよ。私がヒヨリと会場に来たことに舞い上がってコウは傍にヒナタがいなくても気がつかないさ」
「そう……でしょうか」
「ああ。一応、ヒヨリがコウの傍を離れるときは、コウとも顔なじみのボディガードに傍にいてもらう手立てはすでに整っている。安心していいんだよ」
健は腕を伸ばして、ヒヨリの肩を抱いた。
だが、已然としてヒヨリの表情は固い。
健は困ったように、ヒヨリの頭をかき抱いた。