執事ちゃんの恋
第20話
第20話
「コウさま。申し訳ありません、ちょっとトラブルを抱えてしまいました。少しだけ傍を離れても大丈夫でしょうか」
「え? どうしたの、ヒナタ」
「いえ、ご心配は及びません。大丈夫でございますよ」
ヒヨリがニコリと笑うと、目の前のコウは安心したようで胸を撫で下ろした。
「私の代わりに衣笠が傍に控えておりますので、なにかございましたら衣笠に」
「わかったわ」
コクリと頷くと、コウはすぐさま招待客たちと挨拶をした。
衣笠に視線を向けると、大きく頷いた。大丈夫だという合図だ。
それはもちろんのことだろう。
彼は、ヒヨリより5つ上で執事経験も豊富なボディガードだ。
普段は、前文月家当主の妹、正江の護衛をしているが今日は健の根回しのおかげで、小一時間コウの傍に控えてくれることになった。
小さく会釈をしたのち、ヒヨリは人目にあまりつかぬよう速やかにパーティー会場を後にする。
目指すは、健が取っておいてくれたホテルの客室だ。
何事もなかったように堂々と、それでも視線だけはキョロキョロとあちこちを見て誰もいないことを確認したあと、前もって渡されていたカードキーで部屋に入る。
そこにはすでに正装をした健と、美紗子がゆったりとお茶をしていた。
その光景を見て、チクリと胸が痛む。
ヒヨリは、美紗子と初めて会った日のことを思い出した。