執事ちゃんの恋




 割り込めない雰囲気。そして美紗子の視線が痛かった。

 そのときにヒヨリは思った。

 大学の先輩後輩関係以外にも、なにかこの二人に過去はある。

 健に問い詰めてみれば、やはり恐れていた過去があったのだ。


 二人は許婚だった。

 数年前に破談になったということだが、果たして本当だろうか。

 健は心配する必要はないとヒヨリに断言した。

 しかし、美紗子のほうはどうだろうか。


 健に対しての態度や、ヒヨリに向ける視線。

 そこがどうにも気にかかる。


 すべて過去なら、それでもいい。

 だけど、現在進行形だったら……?


 そう考えると、また胸が痛んだ。


「やっと来たか。うまく衣笠と入れ替え成功したかい?」


 ヒヨリは、健と美紗子の仲睦ましい様子を見ていたら、一瞬返事が遅れた。


「あ、大丈夫です」

「衣笠はおばさんの第二執事だから、融通が利く。さぁ、衣笠が時間稼ぎをしてくれている間に」


 ヒヨリを手招きする健を見て、美紗子は大きく頷いた。


「そうね。さくさく準備しちゃいましょうか。じゃあ、ヒヨリさん……こちらへ」


 主寝室に呼ばれ、美紗子によって服を剥ぎ取られ、ドレスを着せられた。

 ヒヨリはあまりの早業に、ただ突っ立っているだけしかできなかった。






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