執事ちゃんの恋





「どう? きついところとかはないかしら?」

「あ、大丈夫です」

「……そう」


 ヒヨリが慌てて返事をすると、美紗子はどこか面白くなさそうに呟いた。

 聞かれたままに答えたというのに、何故にそんな態度を美紗子はとるのだろう。

 ヒヨリは少し疑問に感じたが、次からつぎに美紗子に着飾られていくうちに忘れてしまった。


 ドレスの次は、ヘアメイクだ。

 さすがは有名なメイクアップアーティストだ。

 鏡に映るヒヨリは、先ほどまでの男装執事とは別人だ。

 
 ヒナタとヒヨリは双子で、なかなか見分けがつかないと他人には言われることが多いが、今のヒヨリは確実に女性としての色香を兼ね備えていた。

 さきほどまで男装をしていて、誰も女だと気がつかなかっただなんて誰も思わないことだろう。


「さぁ、これでいいんじゃないかしら」


 美紗子が鏡越しから、覗き込むようにヒヨリを見つめた。

 
「ありがとうございます、美紗子さん」

「これで、誰もあなたが先ほどまで執事の格好をしていたヒナタくんだなんて思わないわよ」

「そうですね」


 ヒヨリは素直に頷いた。

 鏡に映っているのは、間違いなく先ほどまで男装をしていたヒヨリ。

 しかし、どう見てもそれが別人だっただろうと納得してしまうほどの出来だった。

 さすがはメイクアップアーティストだ、と感心していると、美紗子は最後の仕上げだと言ってヒヨリの耳元にイヤリングをつけた。


 大きな真珠のイヤリング。

 少しだけピンクっぽく光る、そのイヤリングは耳元を飾る。

 今日のドレスにピッタリだ。






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