執事ちゃんの恋





「このドレス、健さんが選んだのよ」

「え?」


 自分が今、着ているドレスを、ヒヨリは改めて見つめた。

 てっきり美紗子が、用意したものだとばかり思っていた。だが、それは違っていたようだ。

 そういえばと、今さらながらに思い出した。


 今回の難題を電話で健に話したとき、何か言ってはいなかっただろうか。


『ヒヨリの当日のドレスは、私がプレゼントしますから。裸で私の部屋に来なさい、いいね?』


 確かに電話で健はそう言っていたことを思い出した。

 裸で、と言ったことを思い出してしまい、ヒヨリは頬を赤く染めた。

 が、背中に突き刺さるような視線を感じて目の前にある鏡を見つめる。


 ハッとして鏡越しに美紗子の顔を見ると、無表情でヒヨリをまっすぐとみつめている。

 その表情は健の前では見せていない顔で、ヒヨリはゾクリと背筋が凍る思いがした。


 だが、それは一瞬のことだった。

 フッとすぐに笑顔の美紗子に戻った。

 ヒヨリはそのことに安堵したが、先ほど見せた凍るような視線を忘れられない。

 正直、すぐ傍にいる美紗子に警戒をしてしまう。


「ヒヨリさんの良さを引きたてている、ステキなドレスよね」

「……そうでしょうか」


 健が贈ってくれたドレスを見つめる。

 黒のシンプルなドレスだ。だが、細かくキレイな刺繍が施されていて、どこかオトナなドレスだ。

 膝丈のフレアスカート、フワリと動くたびにシフォンが揺れる。

 デコルテの部分が見えるように大胆に広がっているが、決して下品になっていない。

 健の隣に立ったとき。

 ちぐはぐに見えないよう、大人な雰囲気を漂わせる黒色のドレスは、ヒヨリをキレイに見せていた。


 黒色の髪はウィッグをつけて長く垂らしてるが、サイドは耳を出し、緩くカーブを描くようカールさせている。

 どれも計算されつくされていて、ヒヨリはため息しか出てこなかった。






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