執事ちゃんの恋
「健さんは、あなたのことを知り尽くしているようね」
「え?」
「これは既製品だけど、あなたのためだけに繕ったようにみえる」
「……」
「ヒヨリさんにピッタリね。ステキよ」
「ありがとう、ございます」
ニコリと笑って賞賛してくれる美紗子だが、どうしても素直に受け取ることがヒヨリにはできなかった。
さきほどの突き刺さるような視線が、今だヒヨリを脅かしているからだ。
鏡越しに、美紗子の行動を見るしかできないヒヨリに対し、美紗子は堂々としていた。
時計をチラリと見た後、満足げに頷いた。
「さぁ、健さんに要望されたとおりの時間ピッタリだわ。さぁ、健さんがお待ちかねよ」
「はい……」
「行きましょうか」
美紗子さんに促されるままに主寝室を出た。
だが、ヒヨリはどうも美紗子の態度が解せない。
自分の背中を優しく押す美紗子の手を信じていいものだろうか。
ヒヨリは、困惑と恐れに押しつぶされそうになりながらも、今からが戦いだと気を引き締める。
今から、健のパートナーとしてあのパーティー会場に戻るのだ。
もしかしたらヒヨリとヒナタが同一人物だと、誰かに気づかれてしまうかもしれない。
とにかく気の抜けない場所へと繰り出そうとしているのだ。
今は目の前のことだけを考えよう。
ヒヨリは、美紗子の態度に一抹の不安を残しつつも、促されるままに歩き出した。