冬が、きた。





気づくと、楽器の音はぴたりと止んでいた。


休憩時間だろうか、と考えた。


………帰ろう。


私が校舎の前から歩き去ろうとした、その時。


ヴーン、ヴーン、ヴーン………


携帯が鳴った。


……誰だろう。


画面を見て、……心臓がどくんと跳ねた。


………慎くん。


2、3秒ためらって、通話ボタンを押した。


「………もしもし……」


『………雪音』


低くて、少しかすれた声が、私の名前を呼んだ。


「慎くん………」


『……そんなところにいたら、風邪引くよ』


「えっ?」


ふっと顔を上げると、慎くんが校舎の窓から、心配そうな顔で私を見下ろしていた。


「あ………」


『ごめんね。雪音が余りにもぼんやりしてたもんだから、我慢出来なくて……』


「…………」


思わず慎くんの顔を見つめてしまう。


すると、慎くんは少しうつむいた。


『……ごめん、その、本当は、ずっと言いたかったことがあって……でも雪音に電話する、勇気が無くて………』


「………言いたかったこと…?」




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