冬が、きた。
コンサートが終わった後のロビーコールでも、私は野々山くんを探していた。
すると、今までに見たこともないような笑顔で、野々山くんはお客さん一人一人にお礼を言っていた。
野々山くんがぺこっと下げた頭を上げたとき、ちょうど、少し離れたところにいた私と、目が合った。
「………!」
野々山くんは、少し驚いたような顔をして、でもすぐににっこり笑って、何か言った。
声は聞こえなかったけど、口の形で分かった。
『ありがとう』
私は自分でも顔が赤くなったのが分かって、逃げるようにその場を後にした。