猫系彼氏。
くるっと体を反転させると、足音が消えた。
猫だから、だったりするのかな。
想像しただけで寒気が。
鳥肌立った……。
リビングのTVをつけて、チャンネルを回す。
音楽番組を、聞き流していると。
とんとん、と足音がして。
「……ああ、言い忘れていました」
綺麗な黒髪のイケメンさんが立っていらっしゃいました。
「…………………………不審者」
「なんでそうなるんですか。俺ですよ」
ぽん、と音がして、次の瞬間には耳と尻尾、それから鈴が出ていた。
人間のままでいて!
というあたしの願いも虚しく。
……ということは、人間にもなれる?
「人間にもなれます。集中してるときだけですが」
「だから、首輪じゃなくてチョーカーに鈴を通してたんですか?」
「まあ、そういうことです。人間の時怪しまれませんから」
ふうん、と言いながらミコトさんをまじまじと見る。
耳と尻尾があっても、猫背じゃないんだ。
「言い忘れてたんですけど、車を置かせてもらいました」
キーを見せながら言う。
車?
大学生で?
と思ったけど、一瞬で理解した。
この人は“招き猫”だから、その気になればいくらでもお金を作り出せるんだ。
「あと……、需要があれば食事は俺が作りますよ」
にい、と笑いながら言う。
さっきと雰囲気が、違うような。
「需要があれば、って?」
「例えばとんでもなく料理が下手だとか、早起きして学校に行く時とか。あとは……昼食が弁当だったりとか」
とんでもなく料理が下手、と言ったときに、あたしを見て笑った。
下手なわけじゃない。
小さいときからひとりでやってきてるから。
でも…………どちらかと言えば、料理は好きじゃない。
「……オネガイシマス」
「カタコトになってますよ」
口元に手を当てて笑うその姿は、猫が人間を見下ろす時の姿そのもので。
なんか、むかつく。
「食事以外は干渉しない、ということで」
ミコトさんはふっと微笑むと、ソファに腰掛けた。
「高校生とは生活する時間帯も違うでしょうし」
「そうですよね!」
あたしがいる時間にはいて欲しくない、という希望を込めて言うと、ミコトさんは苦笑して。
「……バイトで夜のお仕事もしてますしね」
何だそれは。
今物凄く怪しいことを聞いてしまったような気がする。
あたしの同居人は、とんでもなく変な人です。