猫系彼氏。


くるっと体を反転させると、足音が消えた。
猫だから、だったりするのかな。
想像しただけで寒気が。
鳥肌立った……。

リビングのTVをつけて、チャンネルを回す。
音楽番組を、聞き流していると。
とんとん、と足音がして。


「……ああ、言い忘れていました」


綺麗な黒髪のイケメンさんが立っていらっしゃいました。


「…………………………不審者」

「なんでそうなるんですか。俺ですよ」


ぽん、と音がして、次の瞬間には耳と尻尾、それから鈴が出ていた。
人間のままでいて!
というあたしの願いも虚しく。
……ということは、人間にもなれる?


「人間にもなれます。集中してるときだけですが」

「だから、首輪じゃなくてチョーカーに鈴を通してたんですか?」

「まあ、そういうことです。人間の時怪しまれませんから」


ふうん、と言いながらミコトさんをまじまじと見る。
耳と尻尾があっても、猫背じゃないんだ。


「言い忘れてたんですけど、車を置かせてもらいました」


キーを見せながら言う。
車?
大学生で?
と思ったけど、一瞬で理解した。
この人は“招き猫”だから、その気になればいくらでもお金を作り出せるんだ。


「あと……、需要があれば食事は俺が作りますよ」


にい、と笑いながら言う。
さっきと雰囲気が、違うような。


「需要があれば、って?」

「例えばとんでもなく料理が下手だとか、早起きして学校に行く時とか。あとは……昼食が弁当だったりとか」


とんでもなく料理が下手、と言ったときに、あたしを見て笑った。
下手なわけじゃない。
小さいときからひとりでやってきてるから。
でも…………どちらかと言えば、料理は好きじゃない。


「……オネガイシマス」

「カタコトになってますよ」


口元に手を当てて笑うその姿は、猫が人間を見下ろす時の姿そのもので。
なんか、むかつく。


「食事以外は干渉しない、ということで」


ミコトさんはふっと微笑むと、ソファに腰掛けた。


「高校生とは生活する時間帯も違うでしょうし」

「そうですよね!」


あたしがいる時間にはいて欲しくない、という希望を込めて言うと、ミコトさんは苦笑して。


「……バイトで夜のお仕事もしてますしね」


何だそれは。
今物凄く怪しいことを聞いてしまったような気がする。








あたしの同居人は、とんでもなく変な人です。



< 2 / 4 >

この作品をシェア

pagetop