インターバル

茶色い季節



“秋”


それは、人によって感じるものが違う季節と言える。……いや、他の季節もそうなのだか、この季節は特に著しく表れるという意味だ。

食欲、スポーツ、読書、芸術……他にも色々とあるだろうが、私にとっての秋とは食欲の秋(色気がないとかいわないで、だって栗とか柿とか美味しいでしょ?)であり、木の葉と共に通り抜ける風が私に鳥肌を立たせたとき、あぁ、夏も終わったんだな、と感じるのだ。


しかし不思議な事に、徐々に浮上してきた意識の片隅に風の音は聴こえるが、全く寒くない。

それどころか右側がポカポカと暖かい。なんだか、お母さんにとよく一緒に寝ていた子どもの頃のような……


あまりの心地よさに寝返りをうち、そのポカポカの原因であろうものを抱きしめる…………ん?抱きしめる?


「おはようおはよう!」


『え?……ぇぇぇえ!』


「アハハハハ!起きた起きた!玖成おにーちゃーん!!人間のおねーちゃん起きたよー!!」


一体これはどういう事だ。


あまりの驚きに抱きしめたモノを放し、これでもかというほど勢いよく後退りするとドンという衝撃と共に壁に背中があたる。


目の前の小さな男の子はクルリと宙返りすると耳を塞ぎたくなるような声でそう叫んだ。


気を落ち着かせるため『ふうー』と思いっきり息を吐き出し再びその子を見る。


パタパタと元気に走って近付いてきたその子はコテンと首をかしげ、ニッコリ笑っている。

その背後に揺れる、ふさふさの…………尻尾……。


「おねぇちゃんおねぇちゃん!お名前は??」


『え?あ、えっと…弥国……です。』


「みくにおねぇちゃん!ボクはね、誠汰(せいた)っていうんだよ!みんなボクのことせーたとかせいちゃんとかっていうんだ!だからみくにおねぇちゃんも、そうよんで!」


『あ、……んっと、せいちゃん?』


「うんうん!」


「誠汰。あまり騒いでやるな。頭に響くだろ。」



なんて元気な男の子なんだ。こんな元気な子久しぶりにみた。……子どもとふれあうこと自体が久々なんだが、このテンションで話しかけられたのは初めてな気がする。

起きたばっかりでその子のテンションについていけずどうしようかとオドオドしていたところに、玖成さんは静かに部屋へ入ってきた。

注意されたせいちゃんこと誠汰は「ごめんなさーい!」と元気よくあやまったあと、ひょいっと玖成さんの首の辺りへ跨がり、肩車の状態に。


なんだか親子に見えるななんて考えながら、ふとせいちゃんの足に目をやると、見覚えのあるハンカチが。


『あれ、そのハンカチって……』

「へへー!ボクこれ気に入っちゃった!」


「誠汰、お礼が先だろう。弥国が助けてくれなければお前は死んでいたかもしれないんだぞ。」


パタパタと足を動かしながら嬉しそうに笑うせいちゃん。そんなせいちゃんを少し睨みながら叱り、ペシッとデコピンをする玖成さん。

少し痛かったのか、額を押さえて玖成さんの肩からヒョイと降り、また私の方へ近付いてきたかと思うと、先ほどまでの元気は何処へ行ったのかと思うほど弱々しく私のお腹に抱きつき、せいちゃんに静かにお礼をいわれた。


きっと怖かったんだろうなと思いながら、優しく頭を撫で『いえいえ』とだけ返した。


なんだか温かな雰囲気のなか、コロンコロンとその場に不似合いな音。

ちらりと音のした方をみると、廊下に転がる茶色いモノ。


『栗?』


「くりー!!!」


『!!っびびびびっびっくりした!!』


突然上がった顔と声に、心臓が出るんじゃないかと思うほど驚いた。

しばらく落ち着きそうもない心臓の鼓動を感じながら、私から離れ勢いよく走って行って栗を持とり、ピョンピョン跳ねているせいちゃんを見る。


「玖成おにーちゃん!栗ご飯!!」


「ああ、そうだな。今日は栗ご飯にしよう。たくさん拾ってこい。」


「やったあ!!」


タタタタタと始めのように元気に駆けて行ったせいちゃんを見ながら、秋はやっぱり食欲の秋だと、栗ご飯を想像しながら思った。


この時お腹がなってしまったのは仕方のないことだ。


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