お腹が空きました。
「ブッ、ハハッ…っ」
固まったままだった杉崎がお腹を抱えて吹き出し、自分の涙をぬぐった。
「はーー、笑った。そーだよな、お前があれで足りるはずないよなぁ。悪かった。今日はだいぶ買い食いしたし、大丈夫だと思ってたんだよ。すまん。…そうだな、家帰ってなんか作るか。」
チャーハンでいいか?と笑いを堪えながら尋ねる杉崎に、紗耶は黙って頷いた。
久々になんか恥ずかしかった。
お腹が鳴った事もまぁ恥ずかしいけれども、お腹が空いているのを隠していたのがばれた事自体恥ずかしかった。
杉崎さんの前で今までお腹がすいても隠したりすることなかったのに。
うううーっと赤面しながら歩いていると、目の前を自転車が横切った。
キキーッ
「ん?」
突然不自然に止まった自転車から、話しかけられる。
「紗耶さん?」
「あれ、」
足取りを止めた紗耶達の前に戻ってくる青年がぺこりと頭を下げた。
「あ、ゆず君!」
自転車に一歩近付く紗耶の後ろで、杉崎が怪訝な顔をした。
「どうしたの?こんな所で。」
「バイトの帰り。ここ通り道。」
紗耶に説明しながら、譲原はチラリと杉崎に視線を送った。
眉間にシワを寄せたまま、黙って事の成り行きを見つめる杉崎に紗耶は振り返る。
「あれ、杉崎さん、ゆず君ですよ。フランボワーズのバイトの。」
そんなに関わったりしないのかな?と紗耶は首を傾げながら説明した。
「…仲良いのか?」
「え、この前に話したじゃないですかー。あれ助けてくれたのゆず君ですよ。やっぱりぼんやりしか聞いてないー。」
「紗耶さん。」
もう、と、膨れる紗耶に、譲原が自転車に下げたビニール袋から箱を取り出した。