お腹が空きました。


信じられないとばかりに紗耶は杉崎に詰め寄る。

食べ物の恨みは怖い。

特に空腹時は。

杉崎は赤いクリームで汚れた指を舐めとりながらチラリと紗耶を見る。


「そんなに欲しかったのか?あいつが作ったケーキ。」

「当たり前ですよ!新作ですよ新作!フランボワーズの!」


先ほどの宝石はもう杉崎の体の中。


ほんとにほんとにもうっどうしてくれようっ!と紗耶が杉崎を睨むと、彼の怒りが宿った瞳とぶつかり、

次の瞬間、紗耶の体はフワッと浮いた。


「(…え。)」


くるりと体が回転し、とさっと着地した地点は先ほどまで杉崎が座っていた長いソファーで。


天井の中にいる杉崎を見上げながら紗耶は目を見開いた。


「なら、…お望み通り食わせてやる。」



フワリと香るベリーの匂い。

ゆっくりと落ちてくる杉崎の唇に、紗耶は完全に固まって足の先さえ動かせなかった。


え、


ええっ、




心臓が耳の裏にあるみたいにドクンドクンと大音量で波打つ。

近い…っ

このまま、杉崎さんと……キスしてしまうのだろうか。




………っっ…っ!



所が。

唇が触れ合うまで、後1センチの所で、ピタリと杉崎が動きを止めた。



「…?」


ぎゅっとつむっていた瞳を紗耶がそっと開ける。


と、目の前に広がる杉崎のドアップにぐっとまた息が止まった。



ひ、瞳が…

近すぎる…っ!



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