お腹が空きました。


ふわっと甘い息が素肌にかかる。


「選べ。」


へっ?と声を裏返しながら紗耶は少し震えて聞き返した。



「お前が選べよ。味見するかしないか。」

切迫詰まった表情のまま、杉崎はこんな時までニヤリと笑う。

味見するかしないか。


「し、」

紗耶が恐る恐る尋ねた。


「しなかったら…?」


杉崎は一瞬悲しそうに瞳を揺らし、言葉を落とす。


「…終わるだけだ。今までのお前との関係も。」



「っ!」




そんな…っ!

紗耶は今までの杉崎との日々を思い出す。

車で拾い上げてくれる時の杉崎のぶっきらぼうな上目遣い。

買い物するときの似合わないカゴ。

ケーキが上手に出来た時の不器用な微笑み。

時々頭に乗せられる大きな手。

材料を測る時の真剣な瞳。


キッチン越しに冗談を言い合って笑った事。





紗耶は体を浮かし、悲痛に顔を歪ませ、杉崎の肩に手をかけた。





「そんなの嫌です…っ!」






ソファーに倒れこむように、紗耶は杉崎を引き、お互いの唇を触れ合わす。


とたん甘い香りいっぱいに包まれ、紗耶は心臓を高鳴らせた。


首の後ろに杉崎の大きな手が回り、角度を深く深く変えられる。


ソファーの上で重たい体に強く抱きしめられながら、何度もキスを繰り返した。


目尻に涙を溜めながら、紗耶は空気を求め唇を離す。

「はぁっ……っ。…そういえば….きょ、興味ないって言ってませんでしたか…っ、っ、」

杉崎は唇の端を持ち上げながら更に紗耶の唇を貪り始める。


「そんなの嘘に決まってんだろ。

言わなかったか?

甘くみてたら、その内喰われるって。」


…ああ、



そういえば言われてたっけ。


紗耶は痺れてきた脳みそでさざ波のようにザラザラ思い出す。


甘い甘い香りに酔わせられながら、耳元で杉崎が呟いた。




「お前が選んだんだ。…覚悟しろよ。」



そういうなり、キスの角度が更に深くなった。




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