お腹が空きました。
「んーーっ!」
パラパラのご飯にそれぞれ綺麗にたまごがコーティングされ、これまた絶妙な量の具に絶妙な塩加減。
紗耶は口いっぱいに幸せを噛み締めながらスプーンを動かした。
ご飯お腹いっぱいに食べられるって本当幸せだよなぁーと目を垂れ下げる紗耶を見つめながら、杉崎はビールの缶を開ける。
グッ、グッ、とそれを喉に流し込み、杉崎は口角を上げた。
「本当にお前は幸せそうに食べるよな。」
「だって美味しいんですもん。ん、こっちのスープも美味しーい!ちなみにおかわりってあります?」
「お前の胃袋どうなってんだ。」
心配してやるぜ、と言いつつ杉崎は少し嬉しそうに顔を歪ませた。
…
「お、洗い物サンキューな。」
「いえ。ごちそうさまでした。」
ガシガシタオルで頭を拭きながら風呂上がりの杉崎は、紗耶に真新しい歯ブラシを投げてよこした。
「これでも使え。」
「あ、ありがとうございます…」
パシッと受け取った封されたままの歯ブラシを見つめ、紗耶は複雑な顔をして頷いた。
歯ブラシ。
そういえば投げ捨てたっけなぁ。
ゴミ箱に恨みがましく投げ入れた良介の黄色い歯ブラシを思い出してしまい、紗耶はなんとも嫌な気持ちになりつつ洗面台を借りた。
こんな小さな事でなんで思い出してしまうのだろう。
未練?いや、そんなんじゃない。
ただフラッシュバックみたいに嫌な事を思い出す。
「あーあ、もー早く忘れたい…。」
私って情けないなぁと思いつつ、紗耶は口をゆすいだ。