お腹が空きました。
洗ったシンプルな歯ブラシを、少し暗い気分になりつつ習慣で鏡の隣にあるコップの中に入れた。
あ、しまった間違えた、と伸ばした手を、紗耶はピタリと空中で止める。
「……。」
並んだ二本の歯ブラシを見つめ、スッと自分の歯ブラシを取り出してコトンと別の棚の上に乗せた。
「歯ブラシありがとうございましたー、ってアレ。」
リビングに戻ると部屋の電気は消され、杉崎の姿も消えていて。
「杉崎さん?」
どこに行ったのだろうと部屋を見渡す。
紗耶はふらふらと見た事のない寝室に足を踏み入れた。
リビングのすぐ隣にある寝室も薄暗く、紗耶はそろりそろりとベッドに近付く。
少し盛り上がった布団に、もう寝たのかなと不思議に思いながら紗耶はちょっとだけめくってみた。
ガバッ
「わっっ!」
ずんっと伸びて来た長い腕にあっという間に捕まって紗耶は気が付いたら布団の中にいた。
「な、なななな…っ!」