お腹が空きました。
「冗談だ。」
そう笑いながら杉崎は紗耶の腕をあっさりと解放する。
えええーっ⁈となんとも複雑で情けない顔をしながら紗耶は杉崎を見上げた。
どさっと紗耶の隣に倒れこみ、杉崎は紗耶のほっぺを軽くつまむ。
「お前、さっきなんかしょうもない事考えてただろ。」
「さっき?」
「歯ブラシ渡した時。」
「あーー…」
バレバレなんだよっ、と鼻を摘ままれ、紗耶は「すむぃむぁすぇん…」と杉崎に力なく答えた。
「…まぁ、時間かかるわな。」
「…。」
本当にバレバレだな自分、などと思いながら紗耶は更にこうべを垂れる。
そんな紗耶の頭をポンポンと撫でながら、杉崎は困ったように微笑んだ。
「俺は気が長いからゆっくり待ってやる。」
杉崎さん…っと、紗耶が少し感動していると、
「……なんて言うかと思ったか?」
「え、」
急に重低音が紗耶の鼓膜を静かに震わせ、頭にあったはずの手のひらがクイッとあごを持ち上げる。
「そんな時は、またさっきみたいに俺の事で頭ん中いっぱいにしてやるから安心しておけ。」
いやらしく濡れる狼の瞳に、冷や汗を流しながら紗耶は黙ってコクコクと何度も頷いた。