お腹が空きました。
ソファに移動し、杉崎は雑誌をめくりながらコーヒーを飲む。
紗耶はキッチンで洗い物をしながらそんな杉崎の普段通りであろうリラックスした様子をぼんやり眺めた。
お皿を泡立てながらふと気付く。
使われたであろうフライパンやボールが見当たらない。
あー、作りながら片付けたのかと紗耶はケーキ作りをする杉崎を思い出し納得した。
磨かれたキッチン。
綺麗に陳列された道具。
この人はなんて日常を丁寧に生きているのだろうと尊敬さえする。
生活感たっぷりの子どもみたいな小汚い自分の部屋を思い出し紗耶はハハハと一人でカラ笑いした。
洗い物が終わったシンクを見つめ、紗耶は備え付けのタオルで手を拭き、杉崎が座っているソファまでぽてぽてと移動する。
「終わりましたー。」
「ん、」
雑誌から視線を外さず杉崎は短めに答える。
そして「ここに座れ。」とでも言いたげに自分の隣のスペースを長い腕を伸ばし左手でポンポンと叩いた。
「え、あ、…じゃあ、失礼しまーす…。」
ちょっとドキドキしながら紗耶は杉崎の隣にちょこんと腰を降ろした。
杉崎は片手で雑誌を持ったまま、もう片方でぐっと紗耶を抱き寄せる。
う、わわわ…っ
ぽてんと頭を彼の胸板に預けながら、紗耶は自分を抱き寄せる杉崎の腕をキュッと両手で握った。
ふわりと杉崎の香りが鼻を掠める。
料理をしたせいか、少し香ばしい良い匂いがした。
杉崎さんはいつも安心の香りがする。
紗耶は柔らかい朝の光と杉崎の体温が気持ち良過ぎて、またまぶたがとろんと下がってきていた。