お腹が空きました。

「ん?紗耶ちゃん何?」


クスクス笑う紗耶に気付き、牛野が尋ねる。

「あ、やー、なんか会社での牛野さんとちょっと雰囲気違うなぁって。」


ああ、と牛野は笑い、目配せして答えた。

「そりゃ会社では“大人の皮”を被ってるからね。」

大人の皮?

紗耶が不思議そうにしていると、牛野が含んだようにニッコリ微笑む。

「小学生の時って高校生がすんごく大人っぽくみえなかった?で、高校生になったらなったで社会人は完璧に大人にみえたりしたんだよね。まぁ年齢的に確かに大人だし。でもさ、実際なってみると大して変わらないんだよね、根本にあるものとかはさ。責任は出来てくるけど。でもこの年になってまだ中身高校生じゃ自分も周りもやってられない訳だ。で、」


「“大人の皮を被る”と。」


普段のピシッとしたスーツ姿の牛野を思い浮かべ紗耶はほーっと感心する。

キュッと決まったネクタイに完璧な仕事さばき。

上品な身のこなしに爽やかな笑顔。

別の部署の新人女子から常に黄色い声が飛ぶ紳士ぶり。

しかしそれが本当に“大人の皮”を被るだけで出来てしまうものなのだろうか。

「猫かぶってるだけだろうがよ。」


ベーコンを細切りにしてカリカリに炒めたものをつまみながら杉崎はしれッと発言した。




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