お腹が空きました。
TVの中で司会者が芸人に無茶振りをしている。
キッチンからはコンコンコンコンと包丁の音が響いて日曜の昼を彩っていた。
「仕事は出来るし家の中の事も下手な主婦よりよっぽど出来る。だからその分、難しいんだよな。上手くいかないんだよ、彼女が出来ても。一人で十分生きていけるんだよね、あいつ。」
ふーっとため息をつき、カラ笑いしながら牛野はぐびっとビール缶を傾けた。
「結婚出来ないタイプ、うん。生活の一つ一つにこだわりがあっちゃったりしてさ。紗耶ちゃんあいつのキッチンに立った事ある?」
え、と紗耶は天井を見上げた。
「んー、洗い物だけ、数回…ですかね。」
「え、入れてもらえるだけですごいよー。やっぱり紗耶ちゃんは逸材だったね。」
ヤマが当たったように喜ぶ牛野に、紗耶はまだ良く分からないとでもいうように首を反対方向に傾け直した。
「とにかくさ、あいつが“本気”を考えるなら、あいつのセンスにぴったり寄り添えて、一ミリの狂いもなく同じようにこだわれる女性か、まーったくノータッチ出来て、それでいて一体感がある女の子か、どっちかだと思ってるんだよ、俺は。どっちもそうとう範囲狭いけどね。」
「んと、イマイチ分かってないんですけど…。」
紗耶はアハハー…と苦笑いしながら脳みそをなんとか使おうと頑張る。
ほめられているのかけなされているのかどっちなのだろうか。
「とにかく前々から紗耶ちゃんは杉崎に合うと思ってたって事!紗耶ちゃんは杉崎のそばに居ても、ナチュラルでいれるでしょう?」
海鮮ものの焼ける匂いがする。
「やー、杉崎さんが機嫌悪い時は緊張しますよ。」
恐ろしいとばかりに、紗耶は両腕をかばい震えてみせた。