お腹が空きました。


「………。」

そんな紗耶の様子をじっと見て、杉崎は少し考え込む。

「…?」

スッと急に体を離した杉崎に、赤い顔をしたままの紗耶は、頭に「?」を生やしながらおずおずと振り返った。


「紗耶。」

「はいっ」

杉崎はテーブルの上に置かれた車のキーを、屈んで掴む。

「次の金曜の夜、開けとけ。」


チャリンと鍵を鳴らし、杉崎はいつもの様にニヤリと笑った。










「ありがとうございました。」

バタンと扉を閉め、運転席を覗き込みながら紗耶は杉崎に礼を言った。


あっさり帰されてホッとしたような拍子抜けしたような…。

まだ明るい空の下で私服の杉崎が紗耶に長い腕を伸ばす。

屈んでいる紗耶の頭をぽんぽん触りながら、杉崎はほんの少し微笑んだ。


「また、会社でな。」

「はい。」

「ああ、それと。」

杉崎は紗耶の腕を引き、小声で囁く。



「今度の金曜日までに、覚悟決めとけよ。」


覚悟。


紗耶はその言葉の意味を色々想像し、ボッと顔を真っ赤にした。

そんな紗耶をクスクス笑ながら杉崎は見つめ、「じゃあな。」と車を発進させる。

消えていく黒い車に、紗耶はしばらく見送った姿勢のまま、ぼーっと立ち尽くしていた。




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