お腹が空きました。

由美がボソリとそう吐きながら、もぐもぐ唐揚げを口に運ぶ。


「まあ、何回もかかってきてんだったらさ、なんか大事な用事かもしんないんだし、今度出てみれば?」

「ふんほうはねー。(うんそうだね)」

紗耶はコロッケにかぶりつきながら相槌を打った。


そんな紗耶の後ろを無表情の杉崎が通り過ぎる。

チラリと視線を滑らせ、由美は紗耶を指でツンツン突いて、小声でしゃべり始めた。

「鬼係長、今日もお弁当だよ。やっぱり同棲してる彼女とかが作ってくれたりしてんのかな?」

「ふぶ…っ!」

紗耶はコロッケを吹きそうになりながら何とか飲み込む。

「係長の彼女って大変そーだよね。係長、冷たそうだし、厳しそうだし亭主関白っぽいし。おしとやかな大和撫子しか つとまらないって感じ。」


「アハハー。」


ソーーダネーー。







「ん?なんだ?クリーム味見するか?ほら、口開けろ。」



本当はド甘いですけどねーー‼‼



紗耶は心の中でそう由美に叫びながら、おずおずと口を開けた。







木曜日の夜。

待ちに待った一通のメールが携帯を振動させ。


金曜日、仕事帰りにドギマギしながら杉崎の車に乗り込んだ。


何度も乗っているはずなのに、なんだろうこの落ち着かない感じ。

紗耶はキュッと胸に手を当てながら慣れ浸しんだ杉崎邸にやってきたのであった。

本日はミックスベリーのムースケーキ。


濃いピンク色のムースクリームはそっくりそのまま今の気持ちを表しているようで、紗耶はなんだかこそばゆく感じたが、甘いベリーの香りがすぐにいつもの食欲を沸き立たせた。


「なんて良い匂いなんですかー。もう今すぐその泡だててるボウルごとスプーンでわしわし食べてしまいたいです!」

なんて事を言うと、今まで「バーカ。」と返って来ていたはずなのに。


「(なんで今私、杉崎さんの指で味見してるのー‼)」


顔が火照って味が半分しか分からない。


長い腕の向こうで、杉崎はからかうように笑うだけ。





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