お腹が空きました。





「杉崎さん、この大口入金の確認、お願いします。」

「ああ。」

スーツ姿の杉崎が自分の大きなディスクで書類を広げる。

複数枚の書類を見合わせ、パソコン画面でもう一度金額を確認しながら大きめのハンコを取り出した。

ある一定の大きな金額からは、上司の確認印が必要になる。

お互いに“仕事の顔”を貼り付けたまま、杉崎は確認し終わった書類を紗耶に差し出した。

「ありがとうございま…」

ぐっ


受け取ったはずの書類がなかなか杉崎の手から外れない。

紗耶が姿勢を正したまま目を丸くすると、杉崎は周りを素早く見渡して、小声で紗耶に尋ねた。


「…なんて説明されたんだ。良い加減教えろ。」

ふっ、と紗耶は思わず吹き出しそうになる。

口元をさりげなく隠して紗耶はおかしそうに微笑んだ。

あれから二週間はたっているのに杉崎はまだあの話題を引きずっている。

まぁ、教えない自分も自分だが。

「杉崎さん、お仕事中ですよ。」

紗耶はもっともらしい理由を突きつけて、楽しそうに自分のディスクに戻って行く。


くっくっくっくっくっ


杉崎が勤務時間中に仕事以外の話をするのは珍しい。

そんな対した事を牛野から聞いたわけでもないのに、紗耶は少し焦る杉崎を見るのが楽しくて仕方なかった。



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