お腹が空きました。
そういって「辻先輩」は由美の肩にポンと手を乗せ、のらりくらりと去って行く。
「…。」
由美は微妙な顔をしてぺこりと頭を下げた。
「…。」
「…くっそー。」
辻が消えて行った扉を見つめ、由美は悔しそうに呟く。
「…なに?」
不思議そうに牛野が尋ねた。
なにって、えっと…
紗耶と由美は顔を見合わせ、困ったような、諦めたような顔をする。
「まぁ、後で言います。」
「そーだね。」
「えぇっ、気になるなぁ。」
◆
「だからね!」
ガンッとジョッキを机に叩きつけ、由美は口を尖らせた。
目が赤い。
これは結構回って来ているなぁと思いながら紗耶は自分も酎ハイのガラスコップを傾ける。
「あの人上手いんですよ!ホント腹立ちます…っ!」
「あ、このズリ美味しー。」
パクっと至福のひと時を過ごす紗耶の斜め向かいでひじを付く牛野は、興味深そうに頷いた。
「いっつもそうなんです。ややこしい客や処理をさり気なくこっちに回して自分はどこ吹く風ーみたいな顔してるんですよね。
後輩だから何も言わないと思って!今回だって始めは辻さんが受け持ってたのに、他の用事だなんだって、いつのまにか私に回って来てたんですよ!」
「へー、それはまためんどくさいなぁ。」
牛野はジョッキを傾けながら正面でもう不貞腐れモードに入っている由美にあいずちをうつ。
からになったジョッキの泡がゆっくりと下へ流れた。