お腹が空きました。
「このまま食器とその下の水滴を拭かずに朝まで置いておいたら、水の型残りますよねぇ。」
ニマニマ顔の紗耶を怪訝に思いながらも、杉崎はゆっくりと食器カゴ周りの水滴を見回す。
「嫌ですよねぇ嫌ですよねぇ。うんうん。」
大きく頷く紗耶に、杉崎は眉をひそめた。
「…だからなんだよ。ん…、」
ぐいっと紗耶に袖を引っ張られ、杉崎は食器を持ったまま紗耶の方に傾く。
紗耶は降りてくる杉崎の横顔にそっと手を添えて、小さな小さな声で彼に囁いた。
“これから、今すぐ、…朝までイチャイチャしたいんですけど。”
「………。」
「…。てなわけで、杉崎さん。キッチンと私、どっちをとって下さいますか?」
と、言ってみたは良いけれど。
なんだか後から後から妙に照れてきた紗耶はゆるりと腕の力を緩め、一歩杉崎から下がってみる。
「…。」
「…え、エヘ。」
「…。」
「…え、えっと、」
「…自分で言って照れてんなよ。」
そう言って、杉崎は吹き出しながら食器とふきんをそのまま置き、ゆっくりと、妖艶に、紗耶に向き直った。
「そりゃ、まぁ、お前にするだろうな。」
杉崎はクスリと笑って紗耶を長い腕で抱きしめる。
キュッと腕を回された瞬間、紗耶はふわりと胸が甘く苦しくなるような杉崎の匂いに包まれた。
「…ほら、杉崎さん優しいです。ね、だから大丈夫ですよ。心配しなくても結婚出来ますよ。」