お腹が空きました。
ああ…
「あ、えっと、ああ、…なるほど…。」
紗耶はあの時のなんとも言えない杉崎の顔を思い浮かべた。
…杉崎の色んな表情を見てきた今だから分かる。あの顔は…。
照れているだけじゃない、あの表情は。
意表を突かれたような、
幸福で満たされたような…。
ん?
…んんん?
「…?紗耶ちゃんどうしたの?顔真っ赤よ?」
「い、いえ…、なんでも…っ。」
紗耶は頬を赤くしたまま頭をかいた。
いや、気のせいかも。そうかも。うん。
そんな紗耶を亜栗は優しい微笑みで見つめ返す。
「…大丈夫。すぐ戻ってくるわよ。」
「はい…」
紗耶は泣きそうな笑顔で亜栗に返事をした。
◆
…結局次の日も杉崎は帰って来ず。
…ピロリロリン
『杉崎さん、いつも杉崎さんが買ってる美味しい生クリーム、安売りしてますよー。』
ピロリロリン
『杉崎さん!雪‼︎こっち初雪です‼︎降りました‼︎一瞬降りました‼︎』
ピロリロリン
『杉崎さーん、やっぱりマカロンは外せませんよね。お土産、楽しみにしてます。しっかりとガードして粉砕させないように持って帰って下さい。よろしくおねがいします。』
…紗耶は読まれないと分かっているのに、スーパーに寄ればついついそんなメールを送り、雪が降れば送信し、スイーツ雑誌を見ればまた性懲りもなくそんなメールを作成してしまうのだった。
「…って、見てないんですよね…。」
読まれない事は知っている。知っているからこそ送れる取りとめのない内容。
本人がいれば、「そんなこと直接言え!」と怒鳴られてしまいそうなことばかり。
ガミガミ口うるさい杉崎を思い浮かべ、紗耶は一人小さく笑った。
「あーーあ、」
…早く、杉崎さんと色んな話がしたい。
本当に、どうってことない話でいい。
よくわからない製菓器具の話でもいい。
早く、彼の隣で。
彼の声が聞きたい…。
「杉崎さん…。」
ピロリロリン
『早く…会いたいです。』