お腹が空きました。

ああ…

「あ、えっと、ああ、…なるほど…。」


紗耶はあの時のなんとも言えない杉崎の顔を思い浮かべた。


…杉崎の色んな表情を見てきた今だから分かる。あの顔は…。


照れているだけじゃない、あの表情は。



意表を突かれたような、


幸福で満たされたような…。



ん?




…んんん?




「…?紗耶ちゃんどうしたの?顔真っ赤よ?」

「い、いえ…、なんでも…っ。」

紗耶は頬を赤くしたまま頭をかいた。

いや、気のせいかも。そうかも。うん。

そんな紗耶を亜栗は優しい微笑みで見つめ返す。


「…大丈夫。すぐ戻ってくるわよ。」


「はい…」


紗耶は泣きそうな笑顔で亜栗に返事をした。







…結局次の日も杉崎は帰って来ず。



…ピロリロリン

『杉崎さん、いつも杉崎さんが買ってる美味しい生クリーム、安売りしてますよー。』


ピロリロリン


『杉崎さん!雪‼︎こっち初雪です‼︎降りました‼︎一瞬降りました‼︎』


ピロリロリン

『杉崎さーん、やっぱりマカロンは外せませんよね。お土産、楽しみにしてます。しっかりとガードして粉砕させないように持って帰って下さい。よろしくおねがいします。』


…紗耶は読まれないと分かっているのに、スーパーに寄ればついついそんなメールを送り、雪が降れば送信し、スイーツ雑誌を見ればまた性懲りもなくそんなメールを作成してしまうのだった。


「…って、見てないんですよね…。」


読まれない事は知っている。知っているからこそ送れる取りとめのない内容。

本人がいれば、「そんなこと直接言え!」と怒鳴られてしまいそうなことばかり。

ガミガミ口うるさい杉崎を思い浮かべ、紗耶は一人小さく笑った。



「あーーあ、」



…早く、杉崎さんと色んな話がしたい。


本当に、どうってことない話でいい。


よくわからない製菓器具の話でもいい。


早く、彼の隣で。


彼の声が聞きたい…。


「杉崎さん…。」



ピロリロリン


『早く…会いたいです。』










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