お腹が空きました。



「はぁ…。」

カタカタとキーを打ちながら紗耶は思わずため息をつく。

杉崎がフランスに渡ってとうとう6日目。

食欲も戻らず、別部署の同期にまで心配される始末。

紗耶は次から次へと出てくるため息を止められずにいた。

「はぁ…。」

「はぁぁぁぁぁ…っ。」

「…ん?」

隣の由美をふと見上げて紗耶は首を傾げる。

紗耶よりも酷いため息をついて、目にくまをつくっている由美に、どうしたのと紗耶はそっと話しかけた。

「…もう、色々あり過ぎて…。昼話すわ。」

ぐったりと答えた由美の口から衝撃が走ったのはその3時間後。

近くの流行ってない喫茶店でだった。



「はっ⁈へっ⁈」

珍しく体を縮めながら話す由美に、紗耶は目を見開いて口を押さえる。

「辻さん⁈こ…っ!?なにそれ!本当⁈」

「本当。しかもそんなの序の口よ…。」

衝撃の内容とはこうだ。

最近やけに食事に誘われていたが、昨日の晩急に辻に告られ、

由美は当然のごとく断ったが、意外としつこく、家のほうまでついて来られ、

ついには逆ギレされ。

由美とすれ違いがどうしても続いてしまっていた彼氏がかばって、
殴りかかって来た辻としっちゃかもっちゃかし、
その様子を近くで見ていた彼氏の幼馴染みが巻き込まれ辻に殴られて。

そしたら何故かお腹押さえながら倒れてしまい。

緊急搬送されたらなんか妊娠してたらしく!

由美は一晩中付き添っていたのだそうだ。

「お腹の子はなんとか無事だったけど、辻はなんか警察に連行されて。で、まさか私の彼氏の子かと思ったけど全然違って…。」

マシンガントークを繰り出す由美に、紗耶は唖然とした表情で言葉を失った。

辻に告白されたのなんて本当の本当に序の口だった。

「わー…辻さんが今日来てなくて上の人が青い顔してたのって、そういう事だったのか…。」

「それで…」

「え?まだあるの?」

「あるからこんな疲労してんでしょうが!!」

ごもっともですと頷きながら紗耶は由美を見つめる。

「それで、幼馴染の元婚約者が出て来て、その人が赤ちゃんのパパだったらしくて、なんかそっちは上手い事まとまって、ひと段落して彼氏と二人で帰ってたら…プロポーズされて………。」

「えーーーーーーーーーっっ!!!」


< 316 / 324 >

この作品をシェア

pagetop