お腹が空きました。
*番外編*
ちょこっと番外編
【ところで。】


「…そういえば、」

「あ?」

すんすん、、と落ち着いてきた紗耶のなにか思い出したような一言で、杉崎は出鼻をくじかれたような妙な顔をする。

胸元のボタンが気付かない内に二個外されていたことなどつゆ知らず、紗耶は涙目で杉崎を見上げた。

「杉崎さん…」

「んー?」

「マカロンは?」

あ、というなんとも気まずそうな顔で彼が視線を泳がせる。

じー、と見つめ続ける紗耶に、杉崎はあー、とか、んー、とか言いながらノロノロと口を開いた。

「その、だな。携帯帰ってから見て…」

「知ってますけど…」

なんだかこの空気、おフランスなマカロンを期待出来ない予感。

紗耶は半分諦めながら早々にスイッチを切り替える。

「じゃあ、もしかしてチョコですか?」

はたまた美味しい焼き菓子?

キラキラと想像が飛び交う紗耶の瞳から涙は引っ込んでいた。

「………。」

無言の杉崎に、紗耶はとうとう悟って少し肩を落とす。

「ですよねー。」

「…。」

「杉崎さん、それどころじゃなかったし、携帯忘れてたし、しょうがないですよねー。」

「…あー…。」

「…寝ます。」

「ちょ、待てっ!」

ガバッと布団をかぶりふて寝しようとした紗耶に杉崎が覆い被さってきた。

「…本当、いいんですよ。気にしないで下さい。」

布団ごしに弱々しい紗耶の籠った声が漂う。

「紗耶…」

「本当気にしないで下さい。若干凹んでますけど…それより、杉崎さんが帰って来てくれた事の方が100倍嬉しいです。」

杉崎はもごもご動く布団を少し目を見開いて見つめた。

「あ、でも、やっぱりちょっとふて寝します。10分後に起こして下さい。じゃあ。」

淡々とそう告げる動く布団を、杉崎は上からゆっくりと抱き込む。

「紗耶…。」

「…….まだ10分たってませんよ。」

「紗耶、顔出せ。」

しばらくじっとしていた紗耶だったが、ちょっとしてしぶしぶ首を前に出した。

少し眉をたらして凹んでいる彼女に、杉崎は申し訳なさそうに柔らかい触れるだけのキスをする。

「悪い…。マカロンはない。」

「はい。」

「チョコもない。」

「…はい。」

「でも、デッカい本場の無塩バターとクリームチーズ買って来た。それで俺がなんか作る。…それでいいか?」

「……はいっ!!」

紗耶はガバッと飛び起き…れなかったので、上半身の布団を勢いよくズラし、自分の上にのし上がっている杉崎に笑顔を見せた。

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