お腹が空きました。
「何が食いたい?」
狼のような風貌は相変わらずなのに、いつもより甘い声と優しい表情で杉崎は尋ねる。
するりと後頭部に回る大きな手に体を預けながら紗耶はキラキラと色々なお菓子を思い浮かべた。
「えっと、ちょっと待って下さいねー、…あ、…でも、…うーん、……あっ!あれがいいです!」
どれだ?と首を傾げる杉崎に紗耶は思い出したように幸せに笑って穏やかに発音する。
「杉崎さんが作った奴で、私が初めて食べた…あのベイクドチーズケーキ。」
「あれでいいのか?」
他にも色々作れるぞ?と言う杉崎に首を振って、紗耶はニコニコとあれが言いんですと言った。
「あれは…、どん底にいた私に元気と幸せをくれたケーキなんです。今思い出してもあれだけ美味しいケーキを食べた事がありません。」
精神的にも身体的にもボロボロだった紗耶を救ったのは、一つの甘いケーキ。
杉崎のケーキだ。
あれを食べた時の幸せを、いつか、ちょっとでも杉崎に返したいと紗耶は思う。
「そう、か。分かった。」
杉崎は考え深げに頷いた。
そしてポンポンと紗耶の頭を撫でる。
まるで小さい子になったみたいで紗耶は照れ臭そうにへへへと笑った。
「そろそろ、出てきたらどうだ芋虫娘。」
「あ、そうですね、そうします。」
言葉通りうねうねと芋虫のように布団から這い出し、っていうか杉崎さんが上からよけてくれたらこんな芋虫の真似しなくて済むのにとブツブツ言いながら紗耶は杉崎の隣に座った。
そんな紗耶の様子を、ワザとだったのかクスクスと笑ながら杉崎は観察する。
「じゃあそろそろいただきますか。」
「え、なにをですか。」
唐突なセリフに紗耶は一瞬首を傾げたが、杉崎の欲に光る狼の目を見て色々と理解した。
あ、わ、っ、とあっという間に今這い出してきた布団に縫い付けられる。
「知ってるか?」
「……何がです?」
「見た目リアルな芋虫の形をしたチョコがあるらしいぞ。」
「あー…そういえば、なんかのニュースで見た気が…ぁっ!」
言い終わらないうちに杉崎は紗耶の弱い首筋に甘くかぶり付く。
「芋虫でも、やっぱり食べたら甘くて美味いらしい。」
クスクス笑って杉崎はそのままペロリと耳を舐めた。
「…ふ、…ぁ…っ!」
「舐めても美味いんだろうなぁ。」
「ひ、人を芋虫チョコに例えるのやめてくださ…っ!…ぁあ…っ!」
えげつないもんと比べられて紗耶は非難するようにぐいっと杉崎の肩を下に押しやる。
そんなものではびくともしない狼は、眉を甘く潜める芋虫娘を早急に溶かしだした。