お腹が空きました。
そんなの、きれい事だ。
それを紗耶は昨日身をもって理解した。
………
『…え?なんで?』
『…。』
ドーナツを頬張りながら紗耶は間抜けな声を出した。
大学から2年付き合った彼氏の良介から別れを切り出されたのは紗耶の部屋でだった。
紗耶とは違い、大学院に進んだ良介とはなかなか会えないながらも良好な関係を築けていると思っていたのに。
良介は口ごもりながらも留学しようかと考えていると説明した。
遠距離恋愛は無理だと。
『え、、…私、待つよ?』
今ですら二週間に1回会えるかどうかぐらいのペース。
少し辛いが、待てなくもない。
『や…、やめとこうよ。お互いの為にさ…。』
や、めとこうって…。
紗耶は軽く混乱しつつ覇気の無い男を見る。
良介はそれでも遠慮がちに食い下がる紗耶の申し出をやんわり断って最後のコーヒーを口にした。
このアパートで飲む、最後のコーヒー。
それが、たった二週間前の事だったのに。
◆
「…マジですか。」
瞬時にガバッと頭を下げながら紗耶はそう静かに呟いた。
ファミレスで友達のミドリとケーキをつついていたら、背中に花を咲かせたバカ面の良介があらわれたからである。